十勝地域の視察

5月14~15日の日程で十勝地域において視察を行いました。参加者は私と宮崎アカネ議員の2名。調査項目は次の3点

1 アピアランスケアについて/音更町保健センター(音更町)
2 酪農について/菊地ファーム(広尾町)
3 MaaSについて/十勝バス(帯広市)

 

1 アピアランスケアについて

アピアランスケアとは、がん治療による外見変化(頭髪の脱毛や身体の一部の欠損など)に対するケアのことです。以前にも関係団体から話を伺い、助成事業について議会で質問にとりあげてきました。記事はこちらです。
http://fuchigamiayako.jp/archives/5206
音更町では2年前からウィッグ等購入費助成事業を行っており、その後、札幌市、函館市、旭川市でも助成事業が開始されています。関連団体のこれまでの取り組みや、制度導入のきっかけ・過程などについて伺いました。

訪問先 音更町保健センター

訪問相手 音更町保健福祉部・健康推進課 とかち女性がん患者の集いプレシャス

参加者 北海道退職者連合

意見交換の内容です。
◯音更町保健福祉部
・音更町ではR4から実施。対象はウイッグや胸部補整具。補助率1/3、上限20000円。がんの種類は問わず。治療が終了している人も対象。
・実績はR4が19件、R5は28件。うち1名は男性。40~60代が多く、全体の80%。乳がんが最も多い。R5は補正予算を組んだ。
・財源が非常に厳しく、いろいろなところから削って捻出した。
・現場の声を理事者が聞き続け、制度の導入に至った。トップダウンでは難しい。
◯とかち女性がん患者のつどいプレシャス
・とかち女性がん患者のつどいプレシャスでは、患者さんやご家族の方と支え合い、情報を共有する談話会や茶話会などを開催している。
・ピンクリボン講演会が開催され、受診率向上の話などがあった。そのときのパンフレットが支援につながった(発症前に、講演会に参加した友人がパンフレットを大切に保管していた事例)。
・これからどうなるかわからない不安を抱える当事者に、がん経験者が抗がん剤治療を行ったことや、数年後このようになるといったことなどを話すことで、不安の解消につなげている。
・治療に入ることを職場に伝える人もいるが、言えない人もいる。治療に入るときは仕事をやめないでねとお伝えしている。
・治療中ずっと調子悪いわけではなく、治療の最後の1~2週は元気な場合もあり、段階的に仕事への復帰に協力する事業者もあった。
◯北海道退職者連合
・退職者会では道に制度導入を要請している。国において助成すべきとの回答だが、国の予算規模は3000万円にとどまる。個人の支援には至っていない。

宮崎議員からは、ふるさと納税を活用してはどうかという提案がありました。
道での導入についての答弁は「支援制度の創設を国に要望する」との答弁にとどまっていますが、導入に向けて今後の議会議論に活かしていきたいと思います。

 

2 酪農について
酪農については飼料価格の高騰、乳価の価格に関する課題、担い手不足など厳しい情勢が続いています。これまで十勝選出の議員をはじめ会派での質問等でとりあげてきましたが、実際に現場の声を聞くことが大事であることからこのたび、道の「北の女性☆元気・活躍・応援サイト」や「Hokkaido farmers story」でも紹介されている菊地ファームさんに伺いました。

訪問先・訪問相手 菊地ファーム

はじめに牛舎を見学させていただき、次に菊地ファームカフェにて6次化についての話を伺いました。
・ブラウンスイスの子どもが月曜日に生まれた。ホルスタインに比べて値が安いが、フレンチでは料理として普及しており、美味しいとのこと。
・ちょうど削蹄が行われていた。年1~2回行われる。削蹄はかなりのストレスで、乳量が変わる。
・資料、資材、エネルギーにコストがかかる。牧草の肥料価格が高騰している。
・人材が不足しており、現在は一人で行っている。体調が悪くても変わりがいないのが現実。
・休むときはヘルパーさんが1日5万。今日お願いして明日きてくれるわけではなく、半年先の予約が必要。
・乳価・子牛の価格が崩壊していて適正価格がわからない。
・経済産業省との意見交換の際に、小規模農場の意見が反映されにくい。
・2018年に放牧地の景色が見えるカフェをつくり、搾りたての生乳でソフトクリームやジェラートなどを提供している。
・オープンしてまもなくコロナが流行した。農場と同じ経営だったのでカフェはコロナ関連の支援金の対象にはならなかった。催事などでの販売でコロナ禍を乗り切った。
・催事ではその場でつくって出す方がよく売れることがわかった。
・製品加工(ソフトクリームメーカーなど)については補助金を使用しなかった。
・自転車での来客もあることからサイクリングスタンドを設置している。

お話を伺いながら、大変な苦労をされているにもかかわらず、菊地さんご夫婦からは、なにか大きなものにつつまれるような深い温かみを感じました。これは牛にとってストレスの少ない環境づくりに最も大切なことなのかもしれません。北海道の酪農の飼養形態は、家族経営体が9割を占めています。こうした酪農家さんを守っていくことが酪農業への新規参入を促進し、担い手不足の解消にもつながります。行政が現場の生の声に耳を傾け、政策に反映していくことが必要だと思います。

3 MaaSについて

MaaSとはMobility as a Serviceのことで、地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスです。海外ではヨーロッパを中心に実装が始まっています。地方交通の維持、地域活性化、利便性の向上、観光客の誘客など期待が寄せられています。北海道では一部の地域で実証実験が始まっています。

訪問先・訪問相手 十勝バス

意見交換の内容です。
・十勝管内のバス利用がS44をピークに減少、人口減少とクルマの増加が背景にあり、危機感があった。
・経営者自ら飛び込みで戸別訪問を行い利用者のニーズと利用減の本質を探った。結果、乗り方がわからない、目的地へ行く選択枝として見えていなかったなどが見えてきた。
・目的地と路線バスを組み合わせた企画商品により2011年から利用者がV字回復した。交通は手段であり目的ではないという考えから、リーフレットはあえてバスを前面に出すことをしなかった。
・コロナの影響で利用者が減った。コロナが明けても利用者は8割程度しかもどらなかった。
・このような背景があり、MaaSの実装への取り組みが始まった。実証実験はこれまで4回。
・バス内で買い物ができるマルシェバス、町のコミュニティスペース『かちばすカフェおおぞら』、カフェ、買い物、バス待合の機能を設置した『大空ローカルハブ』などの取組が行われている。
・人口減少、旅客数減、人手不足、2024年問題への取り組みとして、バスの後部座席を改装して荷物を載せることができるようにした貨客混載バスを導入している。

説明いただいた取締役の方から熱意と意気込みが伝わってきて、話に聞き入ってしまいました。なぜ北海道においてとりわけ十勝でMaaSが進められてきたを探ることが一つの目的でしたが、その答えは、十勝バスの社長や担当の方の、交通を衰退させない、地方を消滅させないという強い決意によって進めらてきたからなのではないかと思います。このことは想いさえあれば他の地域でも取り組むことができる可能性を示唆しています。

このたびの十勝地域での視察は現場の声をお伺いするたいへん有意義なものとなりました。対応いただいたみなさまに心より感謝申し上げます。

※アイキャッチ画像は帯広駅構内で撮影したものです。十勝バスではあまりに熱のこもった話に圧倒されて写真を撮るのを忘れてしまいました。