北海道大学雨龍演習林

7月31日に、北海道大学大学院~低温科学研究所時代に森林の研究で利用していた北海道大学雨龍演習林に行き、ササ枯れとササ林における施業について視察したことについての報告です。

ササはアジア特有の植生で、地下茎を伸ばすことで広範囲に繁殖し、林床を覆うことで樹木の更新を妨げ、森林の動態に大きな影響を与えます。このため、林床を掻き起こすことで樹木の更新を促す研究が行われています。また、ササは数十年~百数十年に一度開花し、その後は一斉に枯れます。きわめて長期的な観測が必要になるため、今のところ正確な頻度やトリガーは分かっていませんが、今後のモニタリングによる研究が期待されています。

長期観察林(6林班)

・広さ3ヘクタール、毎木調査が5年に1回程度の頻度で行われている。
・歴史的には、何かあった時に収益にするために畑にせずに残されていたという経緯がある。畑にせず残した平地の林は稀。
・アカエゾマツはほとんど倒木更新(林床は菌などの影響で定着しにくいので朽ちた倒木の上に定着する)。倒木して30年くらいで実生が定着する。
・開拓時の伐採は丁寧だった。北海道天然林経営では西洋から導入された択伐理論が採用された。成長量の範囲で選択的に持続可能に伐採できる(照査法)。
・天然林経営はうまくいかなかった。理由はササ。択伐の結果、倒木が無くなったため新たな実生が定着できなくなった。
・1960年くらいに天然林を切るようになった。伐採率が上がり、林が劣化した。結果、皆伐して人工林施業に。
・北海道は1990年代半ばまでは天然林施業だった。北大では今でも天然林施業。
・道内の人工林施業はいま1回目。現在利用期に入っている。
・以前は木材の価格は今の3倍であったが、プラザ合意の後、丸太の価格が1/3になり人工林施業が崩れた。当時はマイホームブームで木材の輸入が自由化され、国内林業は壊滅した。
・政治は目先にとらわれる。理念が必要。共有が必要。
・民間事業としては成立しなくなったことから公共事業に。 固定した造林補助金がある。
・固定で94%補助。140億円。保育で68%補助。業界の半分のお金は税金で賄われる。
・人工林をつくるのにはお金がかかる。育てるのにヘクタール200万円。伐採に100万円。売上は200万円のため赤字経営になる。
・北海道は7割天然林。補助金の弊害として施業が目的になる。補助金目的とよりよい森づくりに乖離する。
・森林整備計画が市町村で策定されているが、専門家を配置しにくい。

長期観察林(407林班)
・ミズナラの長期観察林。学生時代に研究していた調査区。
・ササ枯れから2年目。当時は一面ササに覆われ、林床は厚いリター(枯れた葉の層)に覆われていた。樹木の実生の定着は非常に困難だった。
・今年はミズナラのなり年ではないので実生自体が少ない。また、昨年はおおむね10年周期で起こるのマイマイガの大量発生のため、ササ枯れで林床が開けたもののミズナラの定着が起こりにくい状況である。

ミズナラに関する研究
・2024年から48本のミズナラのどんぐり(堅果)のモニタリングが行われている。豊凶は広範囲で同調する(道北エリアくらいの範囲で同調する)。
・アカネズミの個体数はドングリの豊凶とシンクロする。
・ミズナラの育成は確立されていない。ミズナラの伐採後にミズナラを植える取り組みが行われている。母樹があるうちにササを掻き起こし(母樹の葉群下の範囲で150平米程度)、定着したら母樹を切る。択伐する前に掻き起こしておくことで更新を促す。ミズナラ切ったらミズナラが育つようにする。
・掻き起こし作業はユンボで1週間かかる。
・伐採した場所によりトレーサビリティが価値に上乗せされる(雨竜研究林でのミズナラなど)。これにより経済に見合うようになる。
・現在は択伐の場合は更新は義務になっていない(皆伐の場合は植林が義務)。
・現在の人工林はトドマツとカラマツだけで林業がまわっている。
・施業と補助制度の相性が悪い。森を見て施業の方向を決めることが大事。補助対象は1林床単位(「床班」面積は様々)。1か所あたりの施工は今の管理では合わない)。

表土戻しにより天然更新を促す施業についての研究
・2年前に隣接する区画内で、次の3パターンの処理をし、モニタリングが行われていた。①掻き起こして表土をはぎ取った区画②表層をはぎ取った後に表土を戻した区画③表土を2倍量戻した区画
・一般的な施業では表土をはぎ取った後に5年生くらいの樹木の苗を植える。ここで林齢に5年の差が出る。
・3区画で植生に明確に差があった。①では草本がまばらに定着、②では草本に覆われており、③では②にくらべて非常に密であった。草本は主にヨツバヒヨドリ。樹木の定着を妨げることはないと予想される。
・意外とササは入らない。翌年からたくさんの稚樹が定着する。ササが入る前に樹木がササの高さを超える。
・栄養豊富だけでなく地形の複雑さもできる。
・カンバ(シラカンバ・ダケカンバ・ウダイカンバ)が多く出現する。そのほか、ホオノキやキハダは表土戻しで多く出現する。ホオノキは刀の鞘やノック用のバットに利用される。
・表土戻しは苗木植えるより安い。地こしらえするにしても苗木植えるときも必要。下草の刈り払いもいらない。 天然更新を低コストでも行うことができる。
・天然更新に補助メニューあったが、条件が厳しかったため長らく使われていなかった。 5年で一定のサイズになることが条件だった。天然更新では稚樹は1年生から、掻き起こし後の植林の場合は初めから5年生くらいを植えるため。これには補助を充てにくい。このたび初の申請が通った。
・表土戻しがどこでも使えるか明らかではないが、 認めてもらえるよう努力している。

間伐によるカンバ林の施業
・30mごとに10m幅で伐採・表土戻しを行う。これにより高性能林業機械を入れるようになった。
・25%間伐することで補助金の間伐のメニューが適用できる。
・カンバは40年くらいで使える。10年おきにずらせば循環して利用できる。
・ 広葉樹は紙の原料、菌床、家具、合板など建築にも利用され、針葉樹より価値は単価が高い。シラカンバは7年前までは注目されなかったが、細いままでも1㎥当たり1万円程度、針葉樹よりも高い。
・材以外にも、樹皮を使用した工芸品、樹液を利用した飲料水、葉を利用した化粧品など多方面に利用されている。

樹木が育つまでには数十年がかかり、林業は長期的展望を見据えて行うことが求められます。どのような森林の姿を目指すのかを考える上で、このような基礎研究は重要な役割を果たしています。長期観察は地道で費用も労力もかかりますが、目先の政治的な動向で予算や計画などが左右されることなく、林業施策あたりに現場の知見を取り入れながら、持続可能で豊かな森林を次の世代に引き継いでいきたいものです。

写真2段目左:407林班のササ枯れ。以前は鬱蒼としていました。
写真2段目右:学生時代に研究していた樹齢データ使ってを看板にしていただき感激!
写真3段目:搔き起こし後の伐採。稚樹が定着した後に伐採して林冠が開けるため更新が起こる。
写真4段目:左から順に①掻き起こして表土をはぎ取った区画②表層をはぎ取った後に表土を戻した区画③表土を2倍量戻した区画。
写真5段目:カンバ林の施業。10m幅で間伐されている。